『エルフェンリート』に関する覚書

序文

『エルフェンリート』は,岡本倫による漫画およびそれを原作としたアニメーション作品である。

株式会社バンダイの社員だった作者・岡本倫は,1997年に同社より発売された育成シミュレーション・ゲーム「時の国のエルフェンリート」の開発に携わっていた。後に週間ヤングジャンプ増刊漫革2000年19号に掲載された読切漫画『エルフェンリート』で漫画家としてデビューする。本テキストで紹介するのは週間ヤングジャンプ2002年27号より連載された漫画『エルフェンリート』であるが,これら3作品にタイトル以外の共通点はない。よほどこの作者は「エルフェンリート」という語が好きなのだろう。

エルフェンリート

『エルフェンリート』というメイン・タイトルは,ドイツの詩人Eduard Mörikeによって書かれ,オーストリアの作曲家Hugo Wolfによって歌曲化された“Elfenlied”(ドイツ語で「妖精の歌」の意)からきている。

Bei Nacht im Dorf der Wächter rief: Elfe!
Ein ganz kleines Elfchen im Walde schlief
wohl um die Elfe!
Und meint, es rief ihm aus dem Tal
bei seinem Namen die Nachtigall,
oder Silpelit hätt' ihm gerufen.

Reibt sich der Elf' die Augen aus,
begibt sich vor sein Schneckenhaus
und ist als wie ein trunken Mann,
sein Schläflein war nicht voll getan,
und humpelt also tippe tapp
durch's Haselholz in's Tal hinab,
schlupft an der Mauer hin so dicht,
da sitzt der Glühwurm Licht an Licht.

»Was sind das helle Fensterlein?
Da drin wird eine Hochzeit sein:
die Kleinen sitzen bei'm Mahle,
und treiben's in dem Saale.
Da guck' ich wohl ein wenig 'nein!«

Pfui, stößt den Kopf an harten Stein!
Elfe, gelt, du hast genug?
Gukuk!
夜中に村の夜回りが叫んだ「11時だよ!」
小さな妖精が森で寝ていた
11時にぐっすりと!
そして思った
谷で僕を呼んだのは小夜鳴き鳥かな,
それともジルペリットが呼んでいるのかな。

眼をこすりながら妖精は,
カタツムリの殻の家の前に出て
酔っ払いのようにふらふらしている,
まだあんまり眠っていないから,
足を引きずりチップタップと
ハシバミの森を通って谷に下り,
岩壁を伝って滑り降りると,
そこには点々と光る蛍たち

「あの明るい小さな窓は何だろう?
きっと結婚式をしているんだ
小人たちが食卓を囲んで,
広間で楽しくやっているのかな。
よし,ちょっと覗いてやろう!」

いてて,堅い石に頭をぶつけちゃった!
妖精よ,どうだい,満足したかい?
カッコウ!カッコウ!

ドイツ語で11時を表す語(Elfe)と妖精を表す語(Elfchen)の音が似ているため,妖精の子供が夜回りの声を自分の名を呼んだと勘違いして目を覚ましてしまった,という冒頭から始まる詩である。

Silpelitは,Mörikeの“Eduard auf dem Seil”に登場する妖精の女王に仕える人間の子供の名。漫画『エルフェンリート』でディクロニウスの一種を指す“ジルペリット”という語は,これに由来する。

アニメーション

メディア

2004年7月25日~2004年10月17日,AT-XおよびUHF各局にて放送。

2004年10月にDVD 1st Noteが発売,2005年5月には全米においても発売が開始された。

サブ・タイトル

  1. 邂逅(Begegnung)
  2. 掃討(Vernichtung)
  3. 胸裡(Im Innersten)
  4. 触撃(Aufeinandertreffen)
  5. 落掌(Empfang)
  6. 衷情(Herzenswärme)
  7. 際会(Zufällige Begegnung)
  8. 嚆矢(Beginn)
  9. 追憶(Schöne Erinnerung)
  10. 嬰児(Säugling)
  11. 錯綜(Vermischung)
  12. 泥濘(Taumeln)
  13. 不還(Erleuchtung)
  14. 通り雨にて…或いは,少女はいかにしてその心情に至ったか?(Regenschauer)

第14話「通り雨にて…或いは,少女はいかにしてその心情に至ったか?(Regenschauer)」はDVD 7th Noteに収録された番外編で,内容としては第11話の前半と後半の中間にあたる。

サウンドトラック

  1. LILIUM ~opening version~
  2. 渇望
  3. 深海
  4. 花容
  5. 閃光
  6. 揺籃
  7. 浄罪
  8. 輪廻
  9. 約束
  10. 剥離
  11. 虚空
  12. 陽光
  13. 螺旋
  14. 雨露
  15. LILIUM ~saint version~

アニメの企画当時,まだ連載の続いていた原作において目立った活躍の見られなかったWolfの“Elfenlied”はオミットされた。代わりに,オープニング・テーマ曲“LILIUM”のオルゴールがキー・アイテムとして作中に登場する。グレゴリアン聖歌をその歌詞の原典とする“LILIUM”は,アニメのオープニング・テーマ曲としては恐らく史上初めてラテン語の歌詞で綴られた。また,サウンドトラック8曲目の「輪廻」においては第一次ポーランド楽派Krzysztof Pendereckiの様式模倣をしており,挿入曲として評価が高いようだ。

なお,サウンドトラックはDVD 1st Note初回版特典として封入されていたもののみで,単体での発表はされていない。オープニング・テーマ曲“LILIUM”に関しては,エルフェンリートのサウンドトラックを手掛けた近藤由紀夫と小西香葉の音楽ユニットMOKA☆のアルバム『竜宮幻歌』にセルフカバーが収録されているが,アニメで使用されたものとは楽器構成や歌詞の発音などがやや異なる。

アートワーク

オープニングおよびエンディングのアートワークは,後期印象派Gustav Klimtの絵を模倣している(www.elfenlied.netに比較画像がある)。聖歌を原典とするテーマ曲を背景に,女性の裸体やセックスなどの官能的なテーマを多く描くKlimtの作品模倣,すなわち聖と俗の組み合わせが見られるというのは,意図的か否かを問わず興味深い。

海外での人気

日本国内ではAT-XおよびUHF各局でしか放送されなかったことや,AT-Xでの視聴年齢制限もあり,知る人ぞ知るアニメであるが,海外での人気は非常に高いようだ。AnimeNfo.Comの人気投票では,2004年の最高作品として選ばれ,歴代作品の総合ではトップ5以内にランクインしている。

参考文献